この記事では、令和4年から改正される育児休業中の社会保険料の免除制度について詳しく解説しています。
“月末に1日育休を取得するだけで、賞与の手取りが増えるのか?”、“月半ばの育休は社会保険料免除の対象になるのか?”など、現行と改正後の制度について徹底解説していきます!
・出産を控えている方
・3歳未満の子供がいる方
・育児休業中の社会保険料免除について知りたい方

プロフィール
大手金融機関 総合職10年目
個人顧客への資産運用、税金対策等のコンサルタント業務を担当
FP1級、宅地建物取引士

育児休業中の社会保険料(健康保険•厚生年金保険)の免除とは

育児休業制度概要
育児休業とは、1歳に満たない(一定の場合は、最長で2歳)子どもを養育する男女労働者が、会社に申し出ることにより、取得することができる休業のことで、仕事と育児の両立を図ることを目的として設立されました。
男性の育児参加の促進を図るため、「パパ・ママ育休プラス(父母ともに育児休業を取得する場合は、子が1歳2か月に達するまでの間の1年間)」や「パパ休暇(産後8週間以内の期間に育児休業を取得した場合は、特別な事情がなくても申出により再度の育児休業取得が可能)」などの制度も制定されています。
育児休業中の社会保険料(健康保険•厚生年金保険)の免除概要
事業主が年金事務所又は健康保険組合に申出をすることによって、育児休業等(育児休業又は育児休業の制度に準ずる措置による休業)をしている間の社会保険料が、被保険者本人負担分及び事業主負担分ともに免除される制度です。
厚生年金については、産休・育休期間中に社会保険料を免除されていても納付記録としては残りますので、受取年金が減額されることはありません。
また、免除期間中も被保険者資格に変更はありません。
現行の育児休業中の社会保険料免除について

社会保険料が免除になる条件
産休・育休ともに休業を開始した日が含まれる月から、終了した日の翌日が含まれる月の前月までの期間までが社会保険料免除となります。(3歳未満の子を養育する期間)
具体的な例を挙げて解説します。
2021年1月1日〜4月30日(月末)まで育児休業を取得する場合
→1〜4月の社会保険料が免除
2021年4月1日〜4月14日まで育児休業を取得する場合
→社会保険料の免除対象外
2021年4月30日(月末)のみ育児休業を取得する場合
→4月の社会保険料が免除
ケース②のように、月の半ばで育児休業を2週間取得したとしても、休業の期間が月末に及んでいなければ、社会保険料の控除を受けることができない仕組みになっています。
逆に、ケース③のように、育児休業を月末に取得した場合は、1日しか取得していなくても、その月の社会保険料がまるまる控除されるということになります。
ただし、休日に育児休業は取得できませんので、月末最終日が休日である場合は注意が必要です。
ちなみに、賞与や期末手当等にかかる保険料についても免除されます。
賞与月の月末に育児休業を取得した場合、その月の月給と賞与にかかる社会保険料が控除となります。
・休業の期間が月末に及んでいなければ、その月の社会保険料の控除を受けることができない
・月末に1日休業を取得するだけで、その月の月給と賞与にかかる社会保険料が免除になる
社会保険料免除の効果
では、育児休業を取得することでどれだけの社会保険料が免除されるのでしょうか。
具体例を挙げて効果について紹介します。
今回は、全国健康保険協会が出している「令和3年度保険料額表(令和3年4月分から)」の東京版の数値を参考に社会保険料を算出しています。
年齢:30歳
育児休業の取得日:令和3年6月30日
給与支給額:30万円
標準報酬月額:30万円
6月賞与支給額:60万円
給与に対する社会保険料免除額 42,210円(健康保険料14,760円、厚生年金保険料27,450円)
賞与に対する社会保険料免除額 89,340円(健康保険料34,440円、厚生年金保険料54,900円)
6月の給与と賞与から免除される社会保険料の合計金額は131,550円で、育児休業を取らなかった場合に比べて131,550円手取り収入が増える計算になります。
年齢:40歳
育児休業の取得日:令和3年6月30日
給与支給額:40万円
標準報酬月額:41万円
6月賞与支給額:100万円
給与に対する社会保険料免除額 61,377円(健康保険料20,172円、介護保険料3,690円、厚生年金保険料37,515円)
賞与に対する社会保険料免除額 149,700円(健康保険料49,200円、介護保険料9,000円、厚生年金保険料91,500円)
6月の給与と賞与から免除される社会保険料の合計金額は211,077円で、育児休業を取らなかった場合に比べて211,077円手取り収入が増える計算になります。
2つのケースから分かる通り、育児休業を1日取得するだけで数十万円の社会保険料が免除されることになります。
社会保険料の計算方法については、別記事で詳しく紹介しておりますので、気になる方は合わせてご覧ください。
育児休業制度の取得状況
育児休業は、本来育児が必要な期間に合わせて取得すべきものですが、男性は社会保険料の免除を考慮して、休業の期間を決定している方が多いのが事実です。
厚生労働省のデータによると、育休中の保険料免除対象者数(男性)は、6月、7月、12月が多く、6月~7月、12月に賞与の支払いを行う企業が多いことに照らすと、一部の被保険者については賞与保険料の免除を意識して、育休取得月を選択している可能性が考えられます。
現行の育児休業中の社会保険料免除の課題
先ほど解説した通り、月の半ばで育児休業を取得したとしても、休業の期間が月末に及んでいなければ、社会保険料の免除を受けることができない一方で、育児休業を月末に取得した場合は、1日の休業でもその月の社会保険料がまるまる免除されるため、取得時期による不公平感が指摘されてきました。
また、賞与月に育児休業の取得が多いといった偏りが生じており、社会保険料免除を目的とした育児休業の取得が問題とされてきました。
こうした状況を受け、令和2年12月15日に閣議決定した健康保険法等の改正法案で、育児休業中の社会保険料免除の仕組みを改めることが盛り込まれました。

育児休業中の社会保険料免除の改正について

改正内容概要
令和4年10月1日より施行予定の育児休業中の社会保険料の免除要件の改正内容は以下の通りです。
短期の育児休業の取得に対応して、月内に2週間以上の育児休業を取得した場合には当該月の保険料を免除するとともに、賞与に係る保険料については1月を超える育児休業を取得している場合に限り、免除の対象とすることとする。
〔施行予定:令和4年10月1日〕
現行の制度では、2週間育児休業を取得したとしても、休業の期間が月末に及んでいなければ、社会保険料の免除を受けることができませんが、改正後は、2週間以上育児休業を取得していれば、休業の期間が月末に及んでいなくても社会保険料の免除対象となります。
社会保険料免除の対象要件が拡大されており、育児休業取得時期による不公平感の緩和につながることが期待されます。
その一方、賞与に係る社会保険料については、1ヶ月を超える育児休業を取得した場合のみ免除の対象となり、免除要件が厳格化されることになっています。
・社会保険料免除となる育児休業の取得時期については要件が緩和
・賞与に係る社会保険料免除については要件が厳格化
現行と改正後の対象要件の比較
現行と改正後でどのような違いがあるのか、具体例をあげて説明します。
4月1日〜4月15日まで育児休業を取得する場合
【現行】休業期間が月末に及んでいないため、社会保険料免除の対象外
【改正後】育児休業を2週間以上取得しているため、社会保険料免除の対象
賞与月の6月30日(月末)に育児休業を取得する場合
【現行】月給・賞与ともに社会保険料免除の対象
【改正後】月給のみ社会保険料免除の対象(休業が1ヶ月未満のため賞与は対象外)
5月1日〜6月30日(賞与月)に育児休業を取得する場合
【現行】月給・賞与ともに社会保険料免除の対象
【改正後】月給・賞与ともに社会保険料免除の対象(休業が1ヶ月を超えているため賞与も対象になる)
改正後も月末に1日育児休業を取得するだけで、月給に係る社会保険料は免除になりますが、賞与に係る社会保険料の免除には該当しません。
改定後は、育児休業の期間が1ヶ月を超えなければ、賞与に係る社会保険料の免除に該当しないため、1ヶ月未満の育児休業を取得する場合は、どの月に取得しても免除額はほとんど変わらないということになります。
まとめ

育児休業は、本来、育児を行うための休業ですので、手取り額を増やす目的のためだけに利用する制度ではありません。
社会保険料免除のポイントを理解した上で、育児に必要な期間の休業を取得するようにしましょう。
育児休業の取得中の社会保険料免除の仕組みを正しく理解して、ご自身の育児休業取得に役立てていただけると幸いです。
このブログでは、他にも出産・育児に関わる記事を用意しておりますので、あわせてご覧ください。
最後までご覧いただきありがとうございました。
